京あられ・京おかき歴史探訪

現存する文政9年のかき餅

今邑家に伝わる文政9年(1826)に作られたかき餅

江戸時代末期、文政9年(1826)に作られたという「かき餅」が、現在も食べられる状態で、大切に保存されている・・・。ちょっと信じられないようなことだが本当のこと。

この「かき餅」は、京都市伏見区の今邑家に秘蔵されているもので、いつまた起こるともしれない、飢饉や戦乱に備えて、非常食として作り、仏間の奥深くに保存していたものだそうです。同家で保存されている「かき餅」は昔の土佐紙で三重の袋に入れてあり、袋の表には「文政丙戌年正月元旦封包」とあり、裏面には、「ワレ物用心、白餅、平餅、再昌餅納(今邑家の別名)」と達筆にしたためてありました。

封を解いて見せていただいた「かき餅」は、長さ5cm、幅3cmぐらいの短冊に切られており、べっこう色にかわっているものの、とても150年以上(1980年当時)も経ったとは思えないほど立派に原型を保ち、カビひとつなく、手焼きすれば今でも十分に食べられる状態に完全に保存されていました。今後幾年経っても、おそらくこのままの姿を変えないだろうと思われます。また、同家ではこの「かき餅」とともに蓄えられていた「梅干し」は、今は一つも残っていないそうです。保存性の最たるものとして知られる「梅干し」よりも優れた保存性について、京都女子大学食品学教授の土居幸雄氏によると、「かき餅は、澱粉なので、乾燥状態で外部からカビが入らないなど条件さえよければ、理論的には半永久的に保存できる」と話されています。

昭和32年春、長崎で開かれた第14回全国菓子大博覧会に出陳時
昭和32年春、長崎で開かれた
第14回全国菓子大博覧会に出陳時
昭和59年(1984)、東京での第20回菓子大博覧会に出陳時
昭和59年(1984)、東京での第20回菓子大博覧会に出陳時。文政9年より158年経過。只今タイムカプセル中。

今邑家のかき餅の再現

今邑家の「かき餅」は昭和32年当時で130年を経ていました。
焼けば食べられる状態で長期保存されていたことについては、まず「正月元旦封包」の文字が注目されます。今の暦ならば、大寒です。いわゆる「寒の水使った寒餅」が素材だったのです。この点に注目された、当組合の長老、東板宣扶氏は、今邑家の「かき餅」の再現を試み、昭和47年(1972)1月、井戸水で餅米を一日ひたした後、餅をつき裁断し乾燥させ、今邑家のかき餅と同様の条件で長期保管しました。平成12年(2000)の組合50周年の際、一時的にその「タイムカプセル」の封が解かれ、焼いて試食されました。
28年の年月を思わせない香ばしい匂いがして、おいしく食べることができました。現在も後世のためにタイムカプセルにて保存中です。

昭和47年(1972)1月製造の「かき餅」
昭和47年(1972)1月製造の「かき餅」